近年、ビジネスシーンなどにおいて「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にする機会が増えました。
しかし、
・「DX(デジタルトランスフォーメーション)についてしっかりと理解できていない」
・「さまざまな場面でDXを耳にするけれど、なぜ重要なのかがわかっていない」
・「自社でどのようにDXを活用していけばよいのだろうか」
といった悩みや疑問をお持ちの企業担当者も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、DXの定義や注目される理由、DX推進のポイント、DX推進に必要となる人材についてわかりやすく解説していきます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

はじめに、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?他の関連用語とは何が違うのか?について説明します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、簡単に言うと「デジタル技術を使ってビジネスやくらしをより良いものに変革していくこと」です。
DXは英語の「Digital Transformation」の略語であり、日本語の意味に置き換えると「デジタル変革」となります。
Digital Transformationの略語なのに「DT」ではなく「DX」となっているのは、一般的な英語表記として「Trans」を「X」と表現するためです。
より詳しいDXの定義としては、経済産業省が以下のように定めています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
出典:経済産業省(20181212004-1.pdf (meti.go.jp))
デジタイゼーション/デジタライゼーションとの違い
DXに関連する用語として、「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」があります。
それぞれの違いについては、以下の経済産業省のレポートが参考になります。

上記からわかることは、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「デジタイゼーション(Digitization)」「デジタライゼーション(Digitalization)」では視点・視座が異なるということです。
・デジタイゼーション(Digitization):業務プロセスの一部を局所的にデジタル化
・デジタライゼーション(Digitalization):業務プロセス全体をデジタル化
・DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術により企業全体や社会を変革
DXはデジタル技術を活用した企業全体の変革、ひいては社会やくらしの変革までを視野に入れています。
IT化との違い
続いて、DXと混同されがちなIT化との違いについて説明します。
DXとIT化の違いは、以下をイメージするとわかりやすいでしょう。
・DX:ビジネスや企業全体、社会を変革していくこと(目的)
・IT化:変革に向けて、ITを使って業務プロセス効率化などを実行すること(手段)
つまり、DXは必ずしもIT化に限った話ではなく、ビジネスや企業全体、社会を変革していくための取り組み全体を指すということです。
CX・UXとの違い
DXと似たキーワードとして、「CX(カスタマーエクスペリエンス)」「UX(ユーザーエクスペリエンス)」があります。
CXは「Customer Experience」の略で、日本語では「顧客体験」となります。
顧客が商品やサービスに対して感じる、認知・比較検討・購入・アフターサービスまでの一連の体験価値を指します。
UXは「User Experience」の略で、日本語では「ユーザー体験」となります。
CXと意味は似ていますが、UXはより具体的な商品性能やWebサイトのわかりやすさなどを指します。
一方でDXは、デジタル技術を駆使してCXやUXを向上させる位置づけとなります。
なぜ企業やビジネス、社会においてDXが注目されているのか?

では、なぜ近年DXが企業やビジネス、社会において注目されているのでしょうか。
DXに注目が集まる理由は、おもに以下が挙げられます。
企業競争の激化
近年ではデジタル技術の進歩により、企業競争が激化しています。
また、DX先行企業が既存のビジネスモデルを根底からくつがえす「デジタルディスラプション」も出てきています。
デジタルディスラプションによって、これまで競争力を保っていた企業がDXをうまく活用した新規参入企業に大きくシェアを奪われてしまうケースも少なくありません。
そのため、多くの企業や社会にとって、競争力の維持・強化のためにDXはもはや避けて通れない取り組みになってきています。
社会環境の変化
社会環境の変化もDXが注目される理由です。
特にCOVID-19(新型コロナウィルス)の流行によって、ビジネスモデルや働き方の早急な改革を余儀なくされた企業は多いでしょう。
さらに、今後も日本においては天災や地震などの自然災害リスクを無視することはできません。
よって、持続的なビジネスを行っていくためにも、DX活用により柔軟なビジネスモデルや働き方を構築する重要性が高まっています。
レガシーシステムからの脱却
多くの日本企業は、レガシーシステム(老朽化した既存システム)を抱えていると言われています。
このままレガシーシステムを保ち続けた場合、ITコストの負担増加やIT人材の不足が顕在化し、将来的に企業にとって大きな負荷や機会損失につながります。
経済産業省では、上記の問題を「2025年の壁」として警鐘を鳴らしています。
「複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025 年までに予想される IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025 年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性がある。」
出典:経済産業省(20180907_03.pdf (meti.go.jp)(P26))
DX推進の現状と課題

前章ではDXに注目が集まる理由を説明しました。
ここでは、DX推進の現状と課題について述べていきます。
経済産業省による調べでは、日本企業の95%がDXに全く取り組んでいない、または開始し始めた段階とされています。
このことから、ほとんどの日本企業においてDX推進が進んでいない現状がわかります。
DX推進強化に向けた課題としては、おもに以下3つが考えられます。
経営層を巻き込んだ全社的な推進
DX推進強化のためには、経営層を巻き込んだ全社的な取り組みにしていくことが重要です。
DXは企業全体のビジネスを変革していく取り組みのため、全社的な意思決定を行う経営層も当事者にしてスピーディな経営判断をしていくことが不可欠です。
IT部門にかたよった推進になってしまうと、局所的なシステム導入による業務効率化に終始してしまいかねません。
DXの目的は「IT化」ではなく「ビジネス全体の革新」であるため、会社全体での一体化推進が肝要です。
レガシーシステムの刷新
レガシーシステム(既存の老朽化したシステム)の刷新も重要なポイントです。
レガシーシステムが積み重なって、年々IT運用コストが増大している企業も多いでしょう。
レガシーシステムのIT運用コストに予算を割かれると、新しいビジネスモデルの構築や変革に向けた新規投資ができなくなります。
新規投資の財源を確保するためには、思い切ってレガシーシステムを刷新する判断も大切です。
このようなシステム刷新を判断するうえでも、やはり経営層をはじめとした全社的な巻き込みは必要と言えます。
先進的なIT人材の確保および活用
先進的なIT人材の確保および活用も課題です。
経済産業省の「2025年の壁」にもあるように、近い将来、多くのIT人材の引退によるIT人材不足が懸念されています。
そのため、多くの企業にとってIT人材の確保は早急に解決すべき課題となっています。
そしてIT人材確保の次に課題となるのは、登用したIT人材の有効活用です。
せっかくIT人材を登用しても、レガシーシステムの保守・運用に工数が割かれてしまうと競争力強化を図ることは難しいため、DX推進強化に向けた体制構築も重要となるでしょう。
DXによって実現できること

ここでは、DXによって実現できることを紹介します。
おもに以下5点が挙げられます。
ビジネスプロセスの効率化
DXによってビジネスプロセスの効率化が実現できます。
DXの手段となるIT化は、多くの場合、ビジネスプロセス効率化を目指した取り組みであることが多いです。
たとえば、これまで紙媒体で請求書処理を行っていた業務がEDI導入により電子データで完結できるようになったとします。
この場合、経理業務の時間が短縮されることでビジネスプロセス効率化につながります。
意思決定スピードの向上
DXにより経営や事業の意思決定スピード向上にもつながります。
DXによりデジタル技術を活用すれば、大量の顧客データや売上データなどのデータ解析も可能です。
そして、解析されたデータをリアルタイムにダッシュボード表示させることで、すべての関係者(経営層・管理層・現場層など)が簡単に経営状況を把握できるようになります。
このようなデータ可視化の結果、社内でのレポート共有に時間をかける必要がなくなり、迅速な意思決定が可能になるでしょう。
イノベーションの創発
DXはイノベーションを創発させる効果も期待できます。
DXの目的は「ビジネスや社会を変革すること」であり、既存ベースの概念ではなく、未来志向の概念と言えます。
あるべき企業や社会の姿を未来志向で考え抜くことで、これまでに存在しなかったビジネスモデルや社会の仕組みを考案できる可能性が生まれるでしょう。
CX・UXの向上
DXによって、CX(カスタマーエクスペリエンス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)の向上が見込めます。
大前提として、ビジネスは顧客がいなければ成り立ちません。
つまりビジネスを成功させるには、「顧客が満足する商品やサービスを提供すること=顧客への提供価値を高めること」が不可欠です。
そのため、DXで「ビジネスを革新する」ということは、言い換えれば「顧客体験を革新する」ということになります。
したがって、DXでは顧客体験を革新するためにCX・UXの向上を目指すことになります。
企業の収益性増加
先述したように、DXでは顧客体験の向上やビジネスプロセスの効率化を実現させます。
その結果、DXに取り組むことで企業の収益性増加に貢献します。
ガートナー社の調査によると、調査対象であるCEO(企業)の56%がデジタル活用により収益性が増加したと回答しています。
DX推進を加速させるために重要なポイント

続いて、DX推進を加速させるために重要となるポイントを解説します。
経済産業省では、「DX推進ガイドライン」を以下のように定めています。

上記より、DX推進では大きく「経営戦略」「体制構築」「ITガバナンス」の3要素が重要であると言えます。
経営戦略
繰り返しになりますが、DXの目的は「ビジネスや企業全体、社会を変革すること」です。
そのためには、まずは会社全体としての経営戦略の策定が不可欠となります。
全体の経営戦略なしにDX推進を図っても、場当たり的な実行となってしまいます。
たとえば、
・「AIが流行しているから、AIチャットボットを導入しよう」
・「どの企業もRPA導入に力を入れているから、うちの部署にも採用してみよう」
といった取り組み事例はよくありますが、いずれも局所的なIT化でありDX推進そのものではありません。
したがって、DX=IT化という手段の目的化にならないためにも、まずは「会社全体としてどのようにビジネスを変革していくか」の視点で経営戦略を練ることが大切です。
体制構築
変革を可能にするための体制構築も大事なポイントです。
特に、経営層の当事者としての参画、各部門への先進的なIT人材の配置はDX推進の成否を握るカギと言ってもよいでしょう。
ここでも大切なことは、「DXはIT部門の仕事」という風潮にしないことです。
DXは会社全体で取り組むべき重要テーマと位置づけましょう。
ITガバナンス
ITガバナンスの整備も重要な観点です。
会社のIT基盤は、DX推進を行うための土台となります。
そのため、全体最適の視点でシステムの統治を行い、IT基盤の効率化やアジリティ向上を図ることが大切です。
たとえば、
・レガシーシステムの継続利用にあたっての費用対効果の評価
・全社的に既存の老朽化システムを刷新し、クラウドサービスへ移行する意思決定
などは多くの企業にとって取り組むべき重要なポイントとなるでしょう。
DX推進に必要となる人材とは?

前章にて適切な人材配置の重要性を説明しました。
それでは、具体的にどのような人材がDX推進に必要となるのでしょうか。
IPA(情報処理推進機構)の調査によると、DX推進に必要な人材像は以下の7タイプとされています。

上記の7タイプを大きく分けると、以下のグルーピングができます。
■経営戦略やビジネスモデルの構想、策定
・プロダクトマネージャー
・ビジネスデザイナー
・UI/UXデザイナー
■戦略・ビジネスに適合したIT基盤の構想や設計、構築
・テックリード(エンジニアリングマネージャー、アーキテクト)
・先端技術エンジニア
・エンジニア/プログラマ
■実行した取り組みに対するデータ分析、評価
・データサイエンティスト
上記のとおり、大きく「ビジネス」「IT」「データ分析」の3つにグループ分けできます。
DX推進の重要性が高まっていることから、どのタイプも今後さらに需要が増えていくポジションと言えます。
自社のDX推進を担当する際は、上記のどのタイプにて活躍していきたいか、活躍していくべきかを検討するとよいでしょう。
まとめ:DX推進により企業価値を高めていきましょう

今回は、おもにDX推進に関わる企業担当者に向けて、DXの定義や背景、推進ポイント、必要な人材について解説しました。
DXは「デジタル技術を使ってビジネスやくらしをより良いものに変革していくこと」であり、企業競争の激化や社会情勢の変化が著しい近年では多くの企業にとって重要なテーマです。
DX推進にあたっては、特に以下のポイントが大切になります。
・経営層を巻き込んだ全社的な経営戦略の策定
・未来志向でのビジネスモデルの構想
・経営層、管理層、現場層を含めた会社全体でのDX推進体制の構築
・競争力を生み出すIT基盤の構築とIT人材の配置
DXは、もはや多くの企業にとって避けては通れないテーマとなってきています。
「IT部門の仕事だから」「ビジネス部門が考えることだから」と縦割りで区切らず、全社一丸となってDX推進に取り組んでいきましょう。
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